夏がくれば思い出す

学生時代に伊勢丹でお中元の短期バイトをやったことがある。特設コーナーでお客様から発送リストを承るお仕事だ。最近はどうなのか知らないけど、当時はバブルが弾けたことにまだ気付かないで踊っているような時代だったので、お客様一人当たり10〜20件は当たり前、50件なんてのもざらにあって、何十人ものアルバイトがそれぞれ1件ずつ声に出して確認していく様はちょっとした夏祭りの喧騒のようだったと思う。
そんなある日、一人の上品な老婦人が私の前に座った。リストには20件ほどの発送先が書かれており、送るお中元は全部「小豆島手延べそうめん桐箱入り」お値段5000円也。それを「山田太郎様、郵便番号○○、東京都港区○○、電話番号○○、商品番号○番、小豆島手延べそうめん、桐箱入り、5000円、のし有り、1点」というふうにいちいち読み上げ確認していくわけだけど、15人分ぐらい読み上げたところで、それまで黙ってうなずいていた老婦人が「あの〜」と言った。すごく申し訳なさそうに。
「これって」
「はい」
「ショウドシマ・・・」
「え?」
「ショウドシマテノベソウメンだと思うのですが・・・」
「!」

それまでわたくしはずっとデカい声で「アズキ島手延べそうめん」と読み上げていたのでした。穴掘ってブラジルまで行ってしまいたかったです。

言い訳するわけじゃないけど「ショウド島」は知ってましたです。でも「小豆」って書くとは知らなかったの。だって「小豆」は「アズキ」だって習ったんだもん。そりゃあ確かに「アズキ島」なんてヘンな名前だなァとは思ったんだよ。そうめんといえば「三輪」か「島原」か「ショウドシマ」なわけで「アズキ島」ってのは初耳でした。だけどお中元の商品になるぐらいなんだから有名な名産地なんだろうな〜と勝手に納得してしまったのよね。疑問に思わない限り知りようがないっていうか。いや〜、無知って恐ろしいですね。

それにしても15回も「アズキ島」を連呼する前にもっと早く、せめて3件目ぐらいで教えてくれればいいのにとは思ったけど、あまりにも自信たっぷりに連呼してるもんだからなかなか言い出せなかったんだろうなァ。

というわけで本日のお昼ご飯は小豆島手延べそうめんだったのでした。たいへんおいしゅうございました。