社宅の不思議

駐車場をはさんで向かいのアパートの一階に連れの同期夫妻が住んでいる。そこんちの夜と朝はえらく早い。超夜型人間のウチラにはとても真似できない規則正しさで敬服してしまう。夜10時半過ぎには真っ暗で朝6時過ぎには洗濯物が出ている。その洗濯物がちょっとした問題なんである。
 
二人暮しの上やくざな生活をしているアタシは1日おきにしか洗濯機を回さないが、そこんちは毎日干す。飽和水蒸気量に達してそうな今にも泣きそうな天気の日でも干している。拍手。でも不思議なことに干している姿を拝見する事はあまりない。もちろんアタシがゴミ出しとかで表に出るときには既に干し終わってるからっていうのもあるんだけど、他の人もあまり見かけないという。見かけないというよりは、「駐車場に降りていったら窓が閉まった」とか「今干してたはずなのに、洗濯物は揺れてるのにいなくなっていた」など不思議な話ばかりが聞こえてくるんである。まるで鶴女房。
 
んで洗濯物の取り込み方も他とは一線を画している。10時頃出かけようとドアを開けると朝よりちょっと減っている。昼頃帰ってくるとまたちょっと減っている。2時頃宅急便が届いてドアを開けると取り込みは完了している。どうやらこまめに乾き具合を確かめて、乾いているものから取り込んでいるらしい。まとめて取り込むもんだと思っていたけど、うちのマミーの教育が間違っていたようである。
 
まあどんな風に干そうがどんな風に取り込もうがデモクラシー日本では個人の自由は憲法で保障されている訳でとやかく言うつもりはない。とやかく言われる筋合いもないだろうし。ただねー、かなり目の保養なの。ウフ。
 
どピンクのアンダー上下が(平たく言うとぱんちーとぶらじゃーですね)ひらひらと風に舞っているのは壮観ですよ。ちょうど駐車場の出入り口だし。こうね、ハンドルを握って「さあ出かけよう」と前を向くと、自己主張の激しい帰国子女のようなパンチーとばっちり目が合ってしまうわけです。別に中に干さなきゃいけない決まりはありませんよ。女子のぱんちーだってたまには光合成ぐらいしたいだろうし。でもねー。せめてタオルで囲ってくれるとかね。せめて白とかね(そういう問題じゃない)。
 
同期といっても沢山いるし、研修の時顔をあわせた以来配属も違うし、顔を知ってるぐらいだったらしいのだが、右も左も分からない新天地では何かと心強い、奥様は地元の方らしいし色々教えてもらおう、一人も知り合いがいないから仲良くなれたら嬉しいなあ、なんて思って引っ越してきたのだったが、一度だけ連れを交えて4人でランチをした以来(ろくな話は出来なかった)、ほとんど顔を合わせないまま1年近く経ってしまった。
 
関東から泣く泣く引っ越してきた子供ナッシンの奥様は何人かいて、ほどなく仲良くなれたのだが、皆様結局彼女とはお近づきになる機会を逸してしまったらしく、誰も一緒にお茶を飲んだりしたことがないという。連れの同期経由で聴いた話だとベリーシャイな方のようである。ベリーシャイなのにどピンク・・・(関係ない)
 
ところがこないだ買い物に行こうと自転車を出して漕ぎ出したところ、ちょうど洗濯物を取り込もうとして出て来た彼女と鉢合わせした。挨拶するべきか、お姿を見なかったことにした方がいいのか、心は千路に乱れたがなんと彼女の方から声をかけてくれた。ミラクル!
「こんにちはー」
「こ、こ、こんにちは!」←状況に対応しきれてない私。
「暑いのに自転車で大変ですね」
「◇‰〇☆#ЩЙ???」(大変って何が大変なんだ?)
「ま、また今度、お、お昼一緒に行きましょう」
 
彼女もとても緊張しているらしい。これは千載一遇のチャンス。面食らっている場合ではない。
「あ、じゃあ後でお茶しませんか?散らかってるけどうちで良かったら是非」
「え、いいんですか?」
「勿論ですよー、30分ぐらいで帰ってくるんで、じゃあ2時頃」
「じゃあ2時頃」
その日に限ってなんでこういう展開になったのか分からないけど、1年近くたってようやくお茶にこぎつけましたよ。万歳。
 
私より5歳も年上なのに全然見えなくて、天然で可愛い人でした。あまりの天然っぷりに思わずこっちがうろたえる程でした(笑)。
「標準語っていうだけで緊張するもんで・・・」
だから関東から引っ越してきた人となかなかうちとけられないそうです。なるほど。関東出身奥様と地元出身奥様の間に交流があんまないのはそういう理由もあるんですね。子供がいればだいぶ違うんでしょうけど。(嫌な話題だ)
 
そのおっとりした言動で「バイト3日でクビ事件」やら「名古屋発大阪行き最終特急列車途中下車事件」やら、数々の騒動を引き起こしてきたそうで、笑いが止まりませんでしたよ。おもしろすぎます。今まで回りにいないタイプです。素敵です。
 
ひとしきり笑った後、なんとなく洗濯物の話に。要は家事が好きで、特に洗濯が大好きだということだそうです。その上暇だし、早く片付けたくて、乾くのが待ちきれないんだとか。待ちきれないってすごいね。主婦の鏡だ。四角い床を丸くも掃かないアタシとは大違い。
 
4時半に「そろそろ」とお帰りになるまで、かなり楽しい時間を過ごさせてもらいました。そうか、6時半、遅くとも7時までにはダンナ様がお帰りになるから夕飯の仕度をしなくちゃいけないもんね。12時過ぎに帰ってくるうちの連れとは大違い。同じ会社でも部署が違うとこうも違うもんなんですね。まあ別に羨ましくはないけど。ていうか全然羨ましくはないけど。毎日きっちり7時に帰ってこられたら困るし(笑)。
 
後日他の奥様方とお茶をしてるときに(彼女を誘おうとしたらたまたまダンナ様が有給を取って二人でお出かけしていたらしく残念ながらいらっしゃらなかった)そのときの話をしたら、
「洗濯物の話したなら、アレは言ってみた?」
「アレって、アレか〜・・・いやさすがにまだそこまでは踏み込めなかった」
「だめじゃーん、アレが一番肝心なのにー(笑)」
せめて白にしてくださいって?(だから違う)